Tellurは、……現在色々物色中です。

「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」(J・J・エイブラムス監督、ルーカスフィルム、2019)

2020年1月15日  2020年1月15日 
※当然ネタバレあり
前作エピソード8感想文
前々作エピソード7感想

 「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」! スター・ウォーズシリーズのエピソード9とも言われる現時点では正史のラスト作品。当然映画をあまり知らない人でもその噂を耳にしているし、コアなスター・ウォーズ(以下SW)ファンも、僕みたいにライトなSWファンも生きている間に見たい見たいと待ち望んでいた作品だ。どんな作品になっているか。今作のキーを握るキャリー・フィッシャー氏が亡くなって、それでも彼女演じるレイア将軍を様々なテクニックを用いて映画の中で動かしたと話題になった作品でもある。期待を胸に万全の思いで見に行ったのだ。なんか評判が微妙で、そのため公開から半月ほど遅れて見に行ったのだが……。

■中盤までのストーリー展開に難は多かったが、SWと関係のない作品と言われたらかなり面白かった。大作だね! ただ、スターウォーズ正史のラスト作として考えると、難が多い。一言で言うとエピソード7同様ファン向けの懐かしきお祭り作品であり、SWシリーズを発展させる気はないのだな、とわかる、そういう作品であった。

 どういうことかと言うと、公開されて半月経ったのでたぶんもう言ってしまって良いと思うのだが、なんと銀河皇帝パルパティーンが登場(復活?)します! そして新3部作の黒幕ではなかったはずのパルパティーンがレイの旅路に塞がる最後のボスとなります! ……何で? それも冒頭のあらすじ部分でさらっと言われても……。
 パルパティーンって前2作で出てないはずなのに、しれっと出てきてラスボスやってるのだから、ぶっちゃけ前2作は何だったの? ってなる。ダークサイドに足を踏み入れたカイロ・レンの立場は? 僕もカイロ・レンがライバルとして弱い、敵としてカリスマがないと酷評してしまったので、ヤケクソで「絶対悪」パルパティーンを復活させたのかなあ。そうだとしたら申し訳ない。
 物語はあらすじ部分で打倒パルパティーンだと明示され、だから2時間超の作品の割にストーリーはわかりやすかった。ただ、正直パルパティーンが何をしたかったのかはわからない。レイとカイロ・レンをダークサイドの騎士に落としてまた銀河皇帝に返り咲きたいのかな。でも辺境の地であれほど強大な軍隊作れるんだったら、今さら銀河皇帝になる意味なくない? パルパティーンは悪だけど、それに従ってたファイナル・オーダー始め辺境の連中も、それからファースト・オーダーもなかなか邪悪かつシスの信奉者であることが確定したわけで、ラストシーン後シス浄化政策として大虐殺が行われる未来が見えているのだが……。
 パルパティーンはわかりやすい悪として便利なのはわかるけど、SWシリーズの正史として考えるとチープな作りになっちゃったなあと思う。例えばパルパティーンが復活したと宣言されたシーンでは、パルパティーンと直接の因縁のあるルークもアナキンもいないので、パルパティーンがどれほどヤバい奴なのかは視聴者にしかわからないのだ。登場人物たちも一通りショックを受けるも、視聴者以上に「どうやったらやっつけられるんだろう」という困惑や衝撃がなかったため、視聴者へインパクトを与えるためにしか役に立ってない。それでもって派手にやっつけはするものの、正直、数年後スターウォーズ10を作るときにまた復活させられるんだろなぁ、と視聴者目線では冷める。そんな悪のくせに(メタ的に)虚無なキャラクターとなってしまいある意味可哀相なのがさらに虚無。

■改めて言うけどファン向け映画の作りで、新三部作のキャラクターの魅力を引き出せなかった印象も受ける。

 SWシリーズについてあまりコアなファンでない僕だが、実のところ今作で興奮・感動したのはエピソード4~6のキャラクターが登場するシーンが多かったのが不思議なところ。僕自身はファンから嫌われているエピソード8をかなり評価しているので懐古厨ではないつもりなんだけど、霊体となったルークがレイを諭したり、ルークが彼の手で懐かしのXウイングを引き上げたり、ランド将軍が援軍を連れてきたり、歴代のジェダイがレイを鼓舞する(Vガンダムのラストでこういうの見たことある!)シーンはベタだけどなぜか盛り上がった。レイア将軍はさすがにサブキャラクターレベルの描かれ方に留まっていたけど、正史シリーズのラストととして(演者のキャリー・フィッシャー氏の召天も含め)忘れられないインパクトを与えた。パルパティーンの復活も上で批判したように「結局出てくるのか……」と思った一方で、「やっぱり出てくるのか!」と興奮もした。レイア姫(いや、レイア将軍か)がフォースの力に通じていたのはエピソード8でも書かれていたが、実際にそれを使うさまを見るのは「やっちゃった」と思うと同時に「やってくれた」とも思った。カイロ・レンが自分を取り戻す際にハン・ソロの幻影を見るのはわかってると思った。
 ただ……それって登場人物の世代交代がうまくいってないってことでもあるんだ。確かに物語上はレイ&フィン&ポーが主役で、彼らの冒険を描くものだけど、チューバッカが物語前半で保護者のように付き添ったり、ミレニアム・ファルコンが現役で活躍したりする。前作で頑固ジジイやってて若きジェダイ見習いの印象が抜けなかったルーク(だって歳とったくせにまだヨーダに教えてもらってるんだよ?)はついにヨーダのようにカリスマのあるジェダイになりレイを導く。それらは新3部作ってのは旧3部作の延長でしかないことを端的に示しており、やはりこのシリーズはルークの物語なんだと思わせられた。新3部作通じて深堀りできたレイ&フィン&ポー&BB-8は幸せな方で、新たに出たサブキャラクターたちは愛着が全然わかなかったな……。
 特に今作ではレイ&カイロ・レンがルークの代理人としてフォースの使命を背負わされるのは彼らのキャラクターの魅力を奪う要因だったと思う。
 また、エピソード7でレイが何でもない出自として言われたり、エピソード8で1奴隷である子供がフォースの力の兆候を見せたりと新三部作では英雄の血統の物語を乗り越えようとしていたのだが、今作では結局レイがパルパティーンの孫だとわかったりラストシーンで彼女がスカイウォーカーの名を継いでしまう!
 これ、タイトル「スカイウォーカーの亡霊」の方が正しいよね? そこでレイがスカイウォーカーを名乗っちゃうのは過去に囚われていることを示してるよ? ルークもレイア将軍も空で笑ってるだけじゃなくてレイを怒るべきだったよ。ジェダイなんて幻想だと言い切ったエピソード8は健全だったと今となっては思う。エピソード9のラストシーンを見るに、2百年後くらい後では銀河帝国スカイウォーカー王朝が誕生してる未来しか思いつかないよ。

■ちなみにストーリーはかなりアレです。

 ストーリーを批判するとキリがないので2点だけ。
 中盤までのレイは幻影を見続けて、単独行動して、しかもそれが原因でカイロ・レンに見つかるヘマをして仲間をピンチに陥らせる、という邪魔者スパイラルがひどかった。これ、僕が覚えてるだけで2回も同じ展開するんだ。今作のレイはジェダイとしての責務を意識しているせいか、仲間に黙って行動しすぎると思う。ジェダイの選民意識が出てきたのかねえ。
 もう1点。パルパティーンの本拠地を探す中でC-3POの記憶と探る必要があり、それがC-3POの記憶を消すのと引き換えになるという展開があるんだけど、記憶がバックアップされていると明言されているためか特に劇的な演出にもなっておらず、みんなごく当たり前のようにC-3POの記憶を消そうとしているのには単なるロボットとしか扱ってないんだな、と引いた。「敵と戦っているのは自分1人ではなく、戦う姿を見せれば仲間が立ち上がってくれる」というのが今作のテーマの1つだけど、C-3POの勇気は別に誰も奮起させてないのがひどい。このシーンって別になくともストーリー展開(パルパティーンの手がかりを手に入れるイベントってこのシーンでなくとも作れるよね?)に問題がないことも酷さに拍車がかかる。

■とはいえ半ば超能力と化したフォースの光と闇の融合というテーマを描く方法としてはかなり良いと思っていたので惜しい。

 フォースの光を体現したレイと闇(ダークサイド)を体現したカイロ・レン。光は闇をも救い、2人で共に絶対悪と戦い、滅ぼすことで宇宙に平和(=バランス)をもたらす。この構図自体は勧善懲悪であるエピソード4~6がやろうして描き方が薄かったと思っていたので(ダース・ベイダーをもうちょっとちゃんと救ってあげて欲しかったし、ルークにも奪われるだけでなく与えてあげて欲しかった)、そこをちゃんと描いた今作は単なる焼き直しではないと思う。だけどねー。
 シリーズが進むに連れ精神的なものから単なる超能力化したフォースについて、今作フォースの見せ場を最大限に作る上でもレイがパルパティーンの孫というのは絵になるものだった。心を強く持たねば大切な人も殺めてしまうし、使い方によっては癒やしの力にもなるのは絵としての説得力があった。たとえフォースが単なる超能力という印象を強めてしまうシーンであっても。
 ただ、そのようなフォースの光と闇の融合というテーマを描いたところ、それはカイロ・レンが優柔不断に悩み続けることにつながるわけで、エピソード7から「キレるガキ」という評価だった彼が今作ではついにロクな見せ場がなくて可哀想だった。

■映像に手が混んでる分こけおどしという印象が……。

 上記のようにストーリーに難があり、キャラクターの描き方が不十分で、旧3部作の続きみたいなテーマである中、最新技術で表現される迫力のある映像は正直力入れるところ間違ってると思った。SWシリーズ定番の各種惑星にしても、アナキンやルーク出身の砂漠の惑星やクローン兵を作ってた大嵐の海の惑星、エピソード3ラストバトルの溶岩の惑星などに比べるとイマイチ印象が薄い。

■レイとカイロ・レンの恋愛シーンを入れられても……。

 この2人って恋愛的な関係より同士とか兄弟とかそういうイメージがあったので何だこれと思ってしまった。レイに気があるようで最後までそれを言わなかったフィンの描き方は上手かったのだから、何でレイ&カイロ・レンにもそうしなかったのだろう。
 ちなみに、レイ&フィン&ポーの関係って正しく今どきの若者的で何か良いな。恋愛が嫌っていうより、彼らは互いにそういうのを求め合ってないイメージがあったので、今作で急に恋愛絡みのシーンを入れられてびっくりした。

■今後、スター・ウォーズはフォースの手の中から逃れることはできないのだろう。

 そんなこんなで文句を言ってた今作でも数少ない良心と言えるものはあって、それは霊体となったアナキンやヨーダやオビワンを出さなかったこと。フォースの光と闇の戦いである今作はアナキンくらいは出してもテーマに沿ってたかな? それでもルーク以外のかつてのジェダイの姿を出したり、会話するシーンを作らなかったことは評価できる。
 そんなこんなでスター・ウォーズとは関係のない単体の映画だったのなら楽しめただろうし、実際に見ている間は粗が目につくけど面白かった。ただ、ただただエピソード9としては残念だった。キャリー・フィッシャー氏を巧みに動かしたことで話題になったけど、そんなことする暇があったらもっと大切な所を頑張ってほしかった。
 序盤見てて、僕がスター・ウォーズに求めてるのはフォース関係なしに若者数人でのスチャラカ冒険と迫力のある宇宙船チェイスなんだなと思った。
 あと1つ疑問があって、欧米の人って日本人に比べると家とか血統意識が薄いと思ってたんだけど、この作品って僕が理解できないほど血筋にこだわっていた(レイがファミリーネームを聞かれるシーンが確か2回ほどあったはず)。僕なんかはSFやファンタジーでファミリーネームがなくとも気にしない人間なので、かれらのこのこだわりは正直異様に感じた。

 そうそう、一番面白かったのは、映画が終わって全然マニアっぽくない若い女性が自分はSWに詳しくないと前置きしつつ、あのシーンで以前の登場人物が出てたと力説してたこと。名前は覚えていないらしく、そういう意味では詳しくないのかもしれないけど、そんな解説ができること自体十分詳しいよ!
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