2010年12月23日木曜日

サロゲート(Surrogates)

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 何だかよくわからん映画だった。ストーリーに納得できなかった。僕の理解が間違っている可能性があるので、完全ネタバレで書く。

【ストーリー】
 身代わりロボット(サロゲート)によって社会生活を行う世界。生身の人間は自宅に引きこもり、寝っ転がりながらサロゲートを操縦していた。既に生身の肉体同士が顔を合わせる機会が全くなく、逆にサロゲート使用者にとって生身の肉体は嫌悪感を催すものになっている(注:映画のいくつかの描写からそう感じた。設定的にも合ってると思う)。サロゲートの最大の特徴は交通事故などにあっても生身の肉体には何ら影響がないこと、また自分の理想とするボディになるため犯罪が激減すること(注:なぜかは不明w)だった。
 しかしある日、サロゲートが殺される事件が起こる。特異なのは使用者も同時に殺されていた点。この不可解な犯行を解明するためFBIのグリアー捜査官が極秘に捜査を行う。
 殺されたのはサロゲートを開発したキャンター博士の息子。キャンター博士はサロゲート技術を開発し、世界のサロゲートを独占する巨大企業を作るが会社から追い出された。キャンター博士の息子は博士のサロゲート(イケメン)を秘密裏に用いてクラブでナンパしたところを博士と勘違いされて殺されたらしい。ざまあみろ。
 グリアー捜査官は犯罪に用いられた武器が反サロゲート運動家の手に渡ったと知り、突撃し、反撃を受ける。実はその武器は軍がサロゲート無力化の兵器として開発し、実は中の人間まで殺すとわかり廃棄されたものだった。サロゲートの会社は、実は反サロゲート運動を行なっているキャンター博士が目障りになって殺そうとしたものの、最終的には反サロゲート運動指導者(予言者)=キャンター博士の手に入り、息子を殺されアヒャったキャンター博士が全サロゲートに向けて武器を用いようとするがグリアー捜査官によって危機一髪阻止された。しかし結果として全サロゲートは壊れ、人間はサロゲートを今後も使い続けるのか、それともサロゲートを捨てるのか。課題を残し終わる。
 ハリウッドお馴染みの夫婦の問題、一匹狼となり所属するFBIからも追われる主人公、とってつけたような人間の根本に関わる主題も盛り込んだよ。

【感想】
 生身の肉体を捨てて、仮の姿(アバター)で社会生活を行うネタってのは、諸星大二郎「夢見る機械」がもろに当てはまり、攻殻機動隊やサイレントメビウスに要素としてあるし、マトリックスもある意味そうだろう。まあ、マトリックスは生身の肉体に戻れないから外すとしても……。要はサイバーパンク系の活字・マンガSFなら既に使い古されたテーマである。そういえば篠房六郎のMMORPGネタマンガもまさにサロゲートのような作品だったかも。
 なのでSFにある程度親和性のある人ならガンガンと突っ込むことができる。
・社会生活上ロボットを操縦してまで避ける危機って何だろう
・強制的に生身の肉体に戻らざるを得ない(例えば性行為)時はどうしてるんだろ
・ここまで技術が発達しているならば肉体改造もできると思う、というか肉体改造の方がメリットあるよ
・引き篭っている生身の肉体は絶対にヨボヨボになってるよねー
・サロゲートの五感は生身の肉体にフィードバックされるのだろうか。そうしたら事故にあっても痛みを感じるぞ(ここらの技術上の理屈がわからないからイマイチ危機感がない)
・ジェニファー捜査官のサロゲートに入るグリアー捜査官。え、サロゲートって生体認証とか全く行ってなかったんだ
・グリアー捜査官の息子って一体なんだったの? そもそも存在してたの?
・全人口の98%まで普及……は置いておくとして、アメリカ大都市全ての人に普及ってありえないと思うんだ
・犯罪が減る理屈がわからん。サロゲートの維持に金がかかるから余計に犯罪が増える気がする
・いくら身代わりロボットがあっても寝てる間や、直接生身の肉体を叩かれれば終わりだから意味ないよ
と、軽く考えただけでもこのくらいある。念のためググッてみたが、やはり考えることは皆同じで。犯罪が減るなんて嘘だよねーという声は大きかったな。
 まあしかし、どうでも良いことを突っ込むと叩かれるからよそう。何と言ってもAmazonレビュー
・という事で (1)B・ウィリス主演 (2)SF (3)89分で完結 を大前提にエンジョイしましょう!!
がこの映画の全てを表しているのだから。

 というわけで、内容のツッコミ。
 たぶん主題は人と人とのコミュニケーションのはずだ。主人公のグリアー捜査官が妻に向かってサロゲートではなく、生身の肉体で自分と向きあって欲しいと叫ぶシーンとかにそれが現れている。でもさあ、それって別にコミュニケーションの本質ではないのでは? ググるとサロゲートを携帯電話とかに関連つける人もいるみたいだが、どちらかと言えば整形・化粧・サイボーグ化とかそっちの技術に当たるのではないだろうか。サロゲート同士でコミュニケーションをしても身振りや表情は必須っぽいし。少なくとも今の現実で使われている意味でのコミュニケーション不全であるわけじゃないと思う。
 僕がストーリー上引っかかったのはここなんだ。サロゲートが悪だと言われる根拠がわからないのだ。強いて挙げれば先程のコミュニケーションの問題となるだろう。でも生活が劇的に変わっている様子はないし……。街中が美男美女だらけになったら人と人が向き合っていないことになるのだろうか。
 映画の中では、サロゲートは身体の不自由な人のために作った→健常者が使うのはケシカラン!!→サロゲートは悪だ! という理屈も紹介されているが、これはまあ筆が盛大に滑ったのだろう。この理屈を主張するのはキャンター博士1人な上に他に主張する人がいなかったものだから。
 それからサロゲートを開発した会社の黒い話。そしてサロゲート自体の欠陥も上げられる。映画の中で人々がサロゲートについて考え出すきっかけがこの事件を通したサロゲートの欠陥だからだ。でも、事件(実際にはテロだけど)が起こったのは軍が破棄した計画を不正に流用した結果であり、防ぎ様がないと思うが。例えるならば軍で保管されている毒ガスが都市部でばらまかれた→軍はイクナイ! にはならんだろう。不謹慎だが、9・11テロで飛行機が使われたり、オウムのサリン事件で地下鉄が犯行現場になったからと言って飛行機や地下鉄に対して反対した人はいなかったはず。サロゲートを開発した会社も「普通」の企業っぽいし。サロゲートを使って寝ている人々を利用して発電したり、サロゲートが知能を持って人類に反抗させるよう仕向けたりとかみたいなわかりやすい悪じゃないため、スケールも反サロゲートの根拠も薄いのだ。
  最終的に、サロゲートを悪と断言する根拠は恐怖心なんじゃないかな。カルトと言っても良い。劇中で反サロゲート運動家たちがたいした理由もなく「予言者」と呼ばれる人間に賛同したり、事件を犯したりするなんて現実世界の某事件とかを彷彿とさせるものだった。「一般人」と呼ばれる立ち位置の人々もサロゲートが全て動かなくなった後、憑き物が落ちたような顔をして、恐らくサロゲートを捨てて生身の肉体に戻るだろう。ラストシーンのレポーターのセリフからも伺える。事件自体の考察も待たずに空気によって流される姿がここにある。サロゲートを使っている人々も、それに反対する人々も理性を使って選択した結果でないわけだ。これもまた現実世界で思い出されるものがあるだろう。脚本家がここまで考えたかは知らないけど、この映画はサロゲートの良し悪しよりも、技術とそれに流される人々を描き出したのかもしれない。今、この記事を書いててそう感じた。

 まあ、そんなことはさて置いて。シナリオが意味不明だった。なぜキャンター博士は予言者だったのか。キャンター博士を殺すにしてももう少し合法的な技はなかったのか。そもそもキャンター博士が全サロゲートを生身の人間もろとも壊す理屈がなりたたない、などわからない部分が多数。シナリオを通すとさっぱりなので、上の僕の理解も合ってるのか心配。助けて。

 僕個人の意見だが、サロゲートには大賛成である。反対する根拠が見つからん。まあ、もっと進めて全身の機械化とかの方がメリットが大きいと思うけど、サロゲートか生身の肉体の選択をするならばサロゲートということで。ただしサロゲートが普及すれば同時に整形など肉体改造も普及するだろう。だって夫婦生活とか絶対にサロゲートを脱ぐ時が来るのだから。美人の基準が人工皮膚に覆われたサロゲートとなってしまうのだから生身がどこまで綺麗だったとしても整形に走る人々が出るだろう。でもお金を持っていない連中はサロゲートはあるものの、生身を整えることはできない社会となる。そこまで行き着いたら「美」の財産化として社会問題になるのかもしれない。少し前にYouTubeかどこかでブスを守る会ってのがあって問題となったけど、それのさらに深刻なことになる。
 ただしどこまで行ってもそれは人間による人間自身の問題だ。サロゲートにはパーツによって人間の性能を越えることができるため(映画に描写されている)、そんなパーツを使う人が増えるに連れ従来の倫理観が壊れるとか、そっちに向かうならまだしも、ただのカルトの戦いだからねえ。もう一歩深くなってほしい作品だった。