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「百合男子」(倉田嘘、一迅社)→2巻断念

2014年5月22日  2017年2月24日 
 まだ咳が出るけど現世に戻った。
 自分に合わなかったので完読する前に中途断念。しかも読めなかった理由を書こうとするありさま。

 物語ってのは主人公が好きになれるか否かでハードルが大きく上下する。あまり詳しくない事柄について書かれた随筆ですら筆者の書きぶりが上手ければ最後まで読み通す気になれる。その意味で、「百合男子」の主人公は僕には合わなかった。

 百合男子のあらすじを最初に聞いた時、2次元キャラに命をかける主人公がオタクであるコンプレックスとしかもマイナーなジャンルである百合好きこだわりを現実世界でどう生かすか、それとも物語世界に拘泥するかという絵面を想像した。実際は全く異なる。主人公が向かうのは作中の現実世界で行われる百合(というかソフトレズビアン)に対する妄想でしかなく、主人公が空気読めず周りを引かせて痛い目にあうギャグってのが基本パターンとなる。

 正直、主人公が気持ち悪くてページをめくるのが苦痛だった。

 かつて、腐女子という連中が男性オタクから可視化されるようになったとき、現実の男性をネタにしたり無機物を妄想に使ったりするらしいという噂が先行し、それをエッセンスの1つにしたマンガがあった。名を「全日本妹選手権!!」(堂高しげる、講談社)という。僕は完全にギャグマンガとして読んでいたが、当時は批判も浴びたらしい。腐女子とはいえど、ここまで身勝手な妄想なんてそうそうしねーよ、と。「全日本妹選手権!!」は現実を二重に歪めており、生の男性を元に妄想する腐女子をネタ化するオタクたち的な構造であったと言える。
 それ以降、正確にはそれ以前からの流れなのだが、妄想を現実に侵食させない努力ってのをオタク業界は少しずつだが行っており(喩えは悪いけど「イエスロリータ、ノータッチ」みたいな)、生身の人間に対しての妄想をキモいと評するだけの健全さを今では手に入れたと思っていた。

 だからそんな「健全さ」からすれば百合男子の主人公は気持ち悪いと感じざるをえない。
 作中の現実世界で目の前で繰り広げられる2人の女子の仲の良さ、それに対してオタクの妄想でしかない「百合」を当てはめ、自分の欲望を満足させようとストーキングする主人公。主人公視点だからとはいえ、その仲の良い女子2人の関係が読者からも百合としか表現できない現実感のない光景なのも坊主憎けりゃ何とやらかもしれないが気持ち悪いと感じてしまう。
 「男性である自分はそこに存在してはいけないのではないか」(コピー元はwikipedia)と苦悩する主人公だが存在しちゃいけないのは主人公自身の妄想だけであって(ギャグ風味ではあるが本屋で大声で独り言言うとかヤバすぎ)、ただの読者になるのは大歓迎されると思う。
 ちなみに現実世界の百合――つまりレズビアンの世界は例えばcakesで読めたりする。cakes連載がレズビアンの主張をどこまで代弁しているのかはわからないが、現実世界の面倒さを感じ取るにはちょうどよい。百合男子の妄想が現実を類型化した都合の良い妄想でしかないってのがこれでもかというほどわかり……別に百合に何の理想も抱いていない僕ですら同性愛はそんなもんじゃねーよと打ちのめされた。

 実のところ、主人公が現実の人間を妄想に使う気持ち悪い人間だってのは1巻の終わりから延々とテーマとして上がっており、多分3巻で主人公なりの解決というか結論が出るのかもしれないが僕はこれ以上読めなかったよ。「マリみて」が流行った頃なら十分なインパクトを持ってたかもしれないが今だと悪い意味でギャグにしかならない。
 この主人公(というか出てくる男性陣が大なり小なりそうなんだけど)は悪い意味でファンタジーから卒業できてないので、読者に応えられるような結論を出せるのか疑問。そればかりか主人公に下手に思想を与えると無批判で受容しそうなのも怖さの1つである。

 そうそう、僕が一番笑ったのは2巻のコミケ帰りに百合レンジャー5人で議論するシーン。百合に性表現は必要か否かってのは太古の時代の鍵のような泣きゲーにエロシーンが必要かという議論の焼き直しでしかなく、会場に男しかいなかったことも合わせて百合ってのが男性の性的妄想の1変型に過ぎないことを意味してるのだが彼らは気付いてるのかな(そもそも百合と性表現は対立しておらず、森奈津子氏みたいな作家もいるくらいだから……)。

 さて、今回僕がわざわざこんな記事を書いたのは文句を言いつつもギャグマンガとして笑えたから。主人公が気持ち悪かったのは事実。それは別にオタクをカリカチュアしたのが悪いわけではなく(そもそも僕は「ロリコンフェニックス」とか「かってに改蔵」とか、それこそ「全日本妹選手権!!」みたいなオタクをネタにしたマンガを好んでいたし)、現実との距離のせいなのかもしれない。
 ぱっと見では現実を元にしたような世界、人物の絵柄も比較的写実的に描かれている社会。たぶん刃物で腕を刺したら血が出て、しばらくは腕が使えなさそうなリアリティがあるため、余計に男性陣の思考・主人公の行動の異様さについていけなかったんだと思う。ちなみにこの作品はギャグマンガなので、6階から落ちてもケガ1つしない。この作品がいかにもマンガマンガした絵柄で、もっと日常の描写も類型的ならば普通に受け入れていたかもしれない。
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