Tellurは、……現在色々物色中です。

「リライト」(法条遥、ハヤカワ文庫JA、2013)

2014年6月4日  2017年2月24日 
 うう、続編が出てしまって完全に旧聞の感想文だが。

 「時間改変」ってのが商売文句になるとは、良き時代になったものだと感じる。
(※この感想文書いた当時の心境。とは言え今もあまり変わってないので以下当時のままで書く)
 この手のSFネタが一般化したのはやっぱラノベ・エロゲのおかげなんだろうな。
 その性質上内容はネタバレになるのだが、僕がこの本を読んで感じたのは内容とは異なる部分だった。もちろん作品自体は面白い。なぜ事件が起こり、解決はどのようにされるのか。描写される内容はどのように真相に繋がるのかが過不足なく書かれており、読後に伏線と思わしき部分を何度か読むほどだった。

 それくらいには面白い、面白かったのだが……正直時間SFモノは面白い作品にはなり得ても傑作にはならないだろうという感覚も抱いてしまった。

 タイムリープでありがちなのが、時間旅行者が移動先の時間で過去/未来の自分と出くわした時どうなるかという問題だ。時間モノジャンルでもこの処理はバラバラで、目を合わせると時空間が吹っ飛んだり、時間を超えるのは精神なので過去の自分の体を乗っ取ったり、そもそも時間を超えるとパラレルワールドに飛ぶので問題自体が発生しなかったりとバラエティに富んでいる。タイムリープものの面白さの1つはこの異なる時間軸の自分と会わないようにする努力であり、ここをいかに設定するかで時間旅行者の行動を任意に制限をかけられるのだ。
 つまり、約束事が物語の大きな部分を占めており、面白さに直結するジャンルといえる。さらにミステリー仕立てであればその約束事が終盤になるまで読者からは見えなかったりする。今作もそうだった。
 そのような「ルール」の小出し・後出しってミステリー愛好者とは相性が良くないんじゃないかなと思う。当たるか否かはともかくとしても、世界のルールの探求や真犯人への推理を楽しみたい人たちだから……。正直、この本を読んでて僕は途中から単に物語を追うだけになってて全く何も考えることができなかった。

 まあ、これは僕の感性の問題で、ページを捲るたびに今作の時間改変の考察を行い最後のどんでん返しに驚いた、みたいな人だって当然いるだろう。でも、僕はそんな良き読者ではないので受け身になって読むには面白いのだが、能動的には読み辛い本である。
 ちなみにここまでミステリーとしての側面を意識的に書いたが、SFとしてどうなのかと問われると、良くも悪くもないレベル。タイプワープの設定はおおむねオーソドックスな内容である。鏡明氏の「不確定世界の探偵物語」みたいな度肝を抜かれるようなものではない。ちなみに「不確定世界の探偵物語」を読むと客観としては警察とか推理とか調査というシステムが崩壊しているように思え、ミステリーが成り立たなさそう。だから一人称で書かれたのだろう(そして一人称なら叙述トリックが使い放題にはなるのだが、僕は叙述トリックミステリーはそんなに数多く読みたくないな)。

 それで冒頭の時間SFモノは傑作になれないという結論に至る。

 今作は結局、タイムトラベルと聞いて読者が想像する知識を前提としており、その中で作者が一定範囲でルールを操ることで、ラストの衝撃を演出する。もちろんどんな小説も読者に何らかのリテラシーを要求するってのは当たり前なのだが、それでも例えば時間移動系の作品は事実が確定されていない分、作家の裁量が働きやすいという欠点が見えてしまったのだ。
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