Tellurは、……現在色々物色中です。

ランス9(アリスソフト、2014)

2016年2月7日  2017年2月24日 
※この感想文の原案は2014年に……ランス03が出る前に書かれたふる~い内容です

 長期に渡るシリーズ物ってのは昔のファンを満足させつつ、新規ファンを取り込むのが難しいのだろうなと想像される。マンガとかであれば1巻あたりの発行ペースが比較的短いのでキャラブレ防止とか新規キャラの活躍とかを描きやすいのだが、このジャンルは、ねぇ。
 このジャンル(っていうかエロゲだけど)で1人の主人公を長く続けることの一番の難しさは性的なシーンとそれに関わるシチュエーションがマンネリになること。例えばツンデレキャラだったら一度デレさせたら逆にツンツンにする理由が難しく、次回作ではデレキャラによるラブラブを描くしかなくなる。ここらへん、ランスはうまく解決できており、ランスが自分勝手だからエロシーンがわがままになり、ツンデレキャラ――代表者は魔想さんだが――のデレデレシーンを極力排除できる。
 そのような平成ランスシリーズに関わるお約束が外れたのが今作であった。実質的にはかつての名作ママトトのリメイクであり、ランスシリーズには珍しいヒロインルートの存在(なんちゃって純愛っぽい雰囲気がランスと強烈な不協和音を醸し出している)はママトトだからで済ませられるが、中でもかなみちゃんルートと魔想さんルートの存在。うーん、やりやがったな。個人的には、ファンの層も古参から若者まで万遍なくいると思われるこの2人(かなみちゃんは現代風にいったらポンコツキャラだし、魔想さんはツンデレの代名詞)のルートを作るっていうのは思い切ったことだ。しかもそれぞれ、かなみちゃんはリアとの主従関係も含めて幸せになったし、魔想さんはナギとの確執を解決してる。この2人のキャラ設定上のランスに関わる動機をなくしちゃったことで、次回作へのアリスソフトの意気込みが伝わってくる(というか、少なくとも女神AL・ホーネット対ケイブリス・魔王美樹ちゃん・ルドラサウムという狂った伏線を全て解決しなきゃいけない次回作なので、人間サイドの問題を終わらせたんだろう)。

1.概要
 待望のヘルマン編だ。ランスIIIより出た設定で、同じく魔人や聖魔教団系もランスIIIが初出だっけ。設定上は人類最強を生み出し続けており、ファンの考察サイトやSSで散々妄想されまくった連中で、期待も高まるってものだ。
 ヘルマン攻略は鬼畜王でも描かれ、シィルが誘拐され新キャラが次々に仲間になりルートによっては仲間になるキャラもガラッと変わるという鬼畜王の中でも一番力の入った戦いだった。中でもヘルマンのステッセルは下衆中の下衆であり、プレイヤーのヘイトを集めまくったのだ。今作、時代は変わって昔の薬漬け近親行為なんて表現できないが、まあまあ頑張っている。さすがに鬼畜王以来ユーザーの想像をふくらませ続けたキャラたちのシナリオであるわけで、キャラの過去や回想シーンがちゃんと描かれている。ゼスキャラやJapanキャラの来歴が不明なのに比べれば違いは明らかだ。とはいえ、肝心のミネバやアリストレスへの書き込みが薄かったのは痛い。特にミネバはさんざん最強最強と煽っておきながら、終盤まで存在感が薄かった。前作ランクエでカラーの森に侵攻させて部下をも生贄に捧げた憎たらしさに比べたら、ラング・バウ防衛のために飼い殺しにされたミネバは彼女らしくないと感じた。ちなみにニコ動のコメントなどでは、「ランスより弱いリックに勝てないロレックスに負けたミネバ」(文言はうろ覚え)的な評価をされちゃっており……うーん、もったいない。シナリオ設定の根幹を崩すことを言ってしまうが、ヘルマン軍本体と出会わないように立ちまわっていたため重要な敵の末路がテキストで処理されてしまったのは痛かった。正直、プレイヤーがランス本編に求めているのは国を引っ掻き回し縦横無尽に駆け回る爽快感であり、今作みたいに戦術・戦略が求められる戦いとは合わない印象を受けた。さらに魔人が出ないから国家規模の災厄を描けず、結果としてこじんまりした印象になってしまった感じ。

 と言っても面白くないわけじゃなく、ヒロインルートや真エンディングを見ると、敵が倒せなくて苦労した思い出などが蘇る。シーラルートのバレンタインは燃えたし、倒せなくて何度もリセットかけた。戦闘も延々と敵がスポーンし、初見は全滅を覚悟したのに何とかクリアできるという絶妙な難易度で何だかんだでコンシューマと比べても遜色ないと思う。
 序盤で仲間が続々と集まるシーンはパットンが慕われていることが見て取れて、ランスとの対比が面白い。新規キャラも多いし鬼畜王から設定を変更されたキャラもいたが、短いテキストながら性格を一発で把握できる言葉遣いの妙は他のゲームメーカーも見習うべき。
 初回クリアした後でさっさと個別エンディングを見たいというプレイヤーの心情がわかっているのか、ヒロインシナリオでは戦闘が極力省かれているのもうれしいところ
 なので、繰り返すが面白いのだ。不満を持つ人が書いた長文の感想であってもいかに彼/彼女がこの作品を楽しんだかがとうとうと書かれている。
 だけど。
 上で書いたように、だけど何か足りないのだ。たぶん人によって、なくても構わないところと遊びたかったところが違う。不満たらたらの人(でも同時にこの作品が面白いことを認める)・不満があっても全体的に満足した人・普通に満点の人がいる。僕は不満があっても全体的に満足した人だが、それではもっとボリュームを多くした方が良いかと問われると、それも微妙に違う。RPGならともかく、マップを使ったシミュRPGならば1周あたりのプレイ時間は今作くらいのほうがちょうど良い。こんな感じで何が足りないのか直接的に書けないのが今作を貶すにしても長々と長文になる原因かもしれない。

2.シナリオ
 話をシナリオ面に移すと、そんなこんなで伏線とされた聖魔教団関連は微妙。シナリオ中で知ってる人が数名しかいないこともあってかあまり言及されなかったのは痛い。ランスシリーズの新規プレイヤーにとっては聖魔教団なんてチンプンカンプンだったろうから会話に出さないのはそれはそれで熟考の結果だとは思うが、だったら完全にカットしたほうが良かったかもという気がする。というか、聖魔教団は今までだって設定上でさんざん語られただけなので今作のシナリオには噛み合ってないと思う。正直、ヘルマンはミネバが皇帝になるまでの人間ドラマをユーザーからは期待されていたため、聖魔教団の遺産というストーリーとは相性が悪かった。ステッセルも生まれや秘密に比べて動機が異様にこじんまりしてたし。

<ランス03プレイ後追記>
 ランス03と対比すると、何となくスタッフがやりたかったことが見えてくる。パットンを主人公にした人間ドラマを描きたかったのであり、そのために人間離れした能力を持つ魔人は出せなかったのだろう。ヘルマンの人間に聖人君子はほぼいない。誰もが何かしらの打算で動き、ヘルマン革命は無数の動機の結果でしかない。それを最も良く表してるのがアリストレスの策であり、コンバートに裏切られるのもまあ仕方ない。ヘルマン上層部は醜いけどある意味で人間らしいエゴの群れである
 対して、魔人はランス6で描かれたようにその手の感傷を簡単に潰せる存在だ。「ヘルマン」革命を描くには不向きであり、たぶんユーザーから文句を言われるの覚悟で作ったんだろうなあと思った。
<追記終わり>

3.ママトトについて。
 ママトトリメイク……ではあるものの。個人的にはもっとママトト成分を出しても良かったと思う。どこかのサイトの感想でも書かれていたが、カッバハーンが出なかったのは痛い。あと、闘神MM戦で盾の全体攻撃でカットインされたキャラ(パンドラ?)はさすがに唐突すぎた。あと、ママトトならキッズを出して欲しかった。
 それはともかく、今作はママトトリメイクなのでいわゆるシミュレーションRPGなのだが、前作ランクエと比べるとゲームボリュームを増やし辛い印象を受けた。もちろんできないことはない。ままにょにょみたいにフリーで延々ダンジョンに籠もれるモードを搭載すれば良い。が、まあやはり素直なRPGだったランクエよりかはゲームシステムの限界が見えやすい。少なくともランクエでレベル200にして無双するみたいな楽しみ方はできなさそうだ。

4.ヒロイン
 運命の女が量産される現象は日本のサブカルチャー全体で見ても注目すべきだろう。そこらのハーレムマンガやラノベのフラグの立ちっぷりなんて軽く吹き飛ぶレベルだ。

・シーラ
 ペルエレの方が魅力あったな。シーラはいわゆる理想的な従順なお姫様なんだが、逆にあまり美味しくないというか。ランスを慕うお姫様は既に香姫がいるんだよな。鬼畜王の設定だとシーラに救いがないから良き改変だったが、印象が薄い。アリスソフトってこの手のおとなしいキャラは苦手なのかな。リアの気持ちのよいめちゃくちゃさ、マジックの類型的とはいえツンデレ、妹属性の香姫に比べると霞んでしまう。
 シナリオ的にも帝政を終わらせて大統領制っていう聞いたことがある物語。しかも大統領に何の実績も経験もないシーラが選ばれるのは冷静に考えるとまずいんじゃないかな。せめてウルザクラスの経験は必要かと。
 それはともかく、小心者で怠け者でズルくて、でも優しさも同情心もあるペルエレはセリフを読んでも立ち絵を見ても楽しかった。こういう人って僕以外にもいると思う。
 戦闘では回復も攻撃もとにかく射程が長いので攻撃全振り、もしくは最低限に粘りを上げるだけで強烈な単体用遠隔攻撃機となった。

・かなみちゃん
 上にも書いたとおりリアとの伏線も解決され、幸せになり、しかも戦闘でも使える。やったね、かなみちゃん! こんなに良いことづくめじゃ次回作での反動が怖いけど。
 それはともかく、やはりリアがかなみちゃんシナリオの要だろう。自分でランスにあてがっておいて、いざ飼い犬に手を噛まれるとブチ切れて戦争に突き進む暴走具合は見てて楽しい。途中からヘルマンの話を消し飛ばすように暴れるのははさすがにランスシリーズ最古参だけある。
 今作のリアはとても魅力的で、食って掛かるときもかなみちゃんをランスに盗られて怒っているように見える。そもそも責める相手だってかなみちゃんじゃなくてランスがメインだったし。そんでもって、結局は最後にかなみちゃんを許したりするのが誰もが経験したことのある人間的なわけの分からなさで魅力なのだ。そうなんだよね、時間がたって立場も変わったら怒りよりも相手と疎遠になるのが辛くなるんだよね。
 かなみちゃんは安い女というか、途中からチョロさが加速した気がする。ちなみに戦闘では爆弾持って敵をすり抜け、必殺技の範囲も広いのでレンジャー系最強だと思う。

・魔想さん
 何を隠そうナギシナリオ。ナギはもうケッセルリンクの元でしか救われないと思ってたから嬉しいサプライズ。鬼畜王で魔想さんかナギのどちらかしか仲間にできないことに不満を抱いたファンの心情を汲んだアリスソフトのサービス精神は素晴らしい。
 戦闘では熟練度による攻撃範囲拡大と射程無限大直線の必殺技が強烈。特に攻撃範囲拡大は戦術に組み込めるレベルで発動する。肉体的には貧弱だけど。

・チルディ
 アミトス&ガームロアシナリオと言っても過言ではなかった。今作の中で僕の好きな個別ルートはかなみちゃん・魔想さん・チルディ・ピグなんだが、全員良きサブキャラ・ライバルキャラがいることが共通している。っていうか、ランスというかアリスソフトは個別キャラへの書き込みがどうしても不足しがちなのでヒロインを動かせるサブキャラがいればシナリオが一気に面白くなる傾向がある。
 チルディシナリオはまさにそうで、チルディ自身はヘルマン革命とは何の関係もないただのリーザスからの派遣労働者だ。シナリオを動かす力はないのだが、アミトスとガームロアに出会い、ヘルマン革命が成功し、成長物語というテーマも出せた好例。ランクエから遊んだ身としては、チルディの内面の変化がはっきりわかり(ランス9だけしか遊んでないと微妙かも)、好感度が上がった。チルディの強さが描かれないため出来の悪いシナリオだと強さが不明な割にサブキャラたちから讃えられる俺tsueeeキャラになりがちなのだが、エンディングでもまだまだ発展途上で、だから様々なキャラが彼女に期待をかけるという構図になってよかった。
 戦闘ユニットとしては溜め→必殺技が対単体で狂ったダメージを出すので便利だった。バレンタインのHPを半分に減らしたのには驚いたよ。熟練度による再行動率も十分に高く、上位のアタッカーだった。

・千姫
 Japanキャラではランクエの影響もあって香姫が謙信か毛利三姉妹しか印象に残っていなかったので、だれだこいつって感じだった。そんなキャラをヒロインに抜擢するアリスソフトのセンスは面白いんだけど、時々ついていけないなあ。全シナリオクリアした後でも千姫の立場って別のキャラでもいけるんじゃ? という疑念がつきまとう。そんなキャラをヒロインにして、ランスの子供を宿させたのは面白いんだけど……。
 戦闘ユニットとしては粘りが異様に高いのと近接戦闘なのに射程があるので便利。ただ、粘りが高すぎてBADエンドイベントが難しかった。

・ピグ
 オノマ博士シナリオ。アリスソフトでお馴染み悪ノリの無茶苦茶キャラが暴れまわるストーリー。ピグがプレイヤー視点から物語にツッコめるキャラなのも相まってひどい(褒め言葉)ストーリーだった。まさに「ヘルマン革命どこ行った」。
 オノマ博士が言った、人類が滅びた後の支配種族=イカってのは次回作のルドラサウム編に繋がるのかなと一瞬考えたが、たぶん関係ないだろう。
 個人的にはピグってヘルマン革命ともそれまでのランスシリーズとも関係がないので最もいらないキャラだと思っていたが、オノマ博士なら仕方がない。デビルミネバが現れたけど仕方がない。いつの間にかヘルマン革命という名目が消えてたけど仕方がない。変身オノマ博士の倒れるモーションが仮面ライダーの怪人っぽいけど仕方がない。ピグルート最高。

・ミラクル
 ランスが執事になったり髭になったり禿げたりするシナリオ。主人公とヒロインが老けた姿を描くなんて昔じゃ考えられなかったぞ。
 ヒロインの中ではミラクルとピグだけが完全新規で(シーラは鬼畜王以来のレギュラーと言っても良いでしょう)、しかもミラクルについてはライバルとなるキャラもいないので、その分描き込みが濃かった。なんちゃって純愛的な流れだった。シリーズのラスト近くでこんなキャラを出して収拾がつくのか?
 魔法使いだけど回避が高かった。でも体力がないので敵の真ん中には特攻できない悲しさ。

5.終わりに
 この章はランス03終了後に書いているが、リーザス側のヘルマンへの恨みを書き込んでいれば神だったと思う。ランス3(または03)で魔人を引き連れ国土をぐちゃぐちゃにされた恨みをチルディあたりが吐き出し、それでもヘルマン革命を成功させるといった内容のほうが今から思えば過去作との繋がりを感じられたと思う。なんにせよ、2016年の今年はランス完結編だ。どんな内容であれ、楽しみ。
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