Tellurは、……現在色々物色中です。

「箱入りドロップス」(津留崎優、芳文社、全6巻)

2017年7月19日  2017年7月19日 
 青春とは人生の初期に数年で終わってしまうから、光り輝くものなんだよね~と読み終わってから考えた。
 ジャンルは4コマ日常系ラブコメ。苦手な人は苦手なジャンルだろう。僕は実のところ、日常系や4コマ形式とは比較的相性が良くて、飽きなければ読めてしまう。6巻で終わるので手軽に読めると思って手を出したのだが……。

 このマンガの全ては箱入り娘と評されるヒロインが表している。学校にすら行ってなかった彼女が主人公の家の隣に引っ越し、それから共に同じ高校に通うシーンから物語が始まるが、何と言ってもヒロインの最大の特徴は1人で横断歩道すら渡れないってところだろう。家から出たことがないので自動販売機すらわからず、ある意味でその手のキャラの典型といえば典型的なのだが、しかし純粋で好奇心が旺盛なところがテンプレートさを感じさせない。
 ヒロインが新しいものとして驚き楽しむ生活の全ては、僕達(そして主人公などヒロイン以外の登場人物)からすると珍しくもないものなんだけど、毎日が新しい経験の連続である学生の象徴でもあると思う。それは、この作品はちゃんと時間が流れていることでもわかる。3年間を描いた作品であり、バレンタインデーとか同じイベントがあるものの、起きる出来事は過去を踏まえてラブコメ的に前進を続ける。
 そして楽しい時間も終わりを迎え卒業式を乗り越える姿は、この作品を読んでいた読者の姿と重なる。ヒロインが主人公に依存せず自分で歩みを進める姿は良いものだ。僕は単行本を一気読みしただけだけど、雑誌でリアルタイムに読んでいたファンは辛かったろうに……。
 しばしばマンガなどへの批判として出されるような突飛な設定はなく(強いて言えばヒロインが箱入り娘ってことだけど、引きこもりと同じような描かれ方だから気にならなかった)、リアリティのある世界でリアルな悩みを抱えてそれを乗り越えるキャラクターが輝いていた。

 ラブコメ部分も面白い。ヒロインと主人公がくっつくのは1巻を読めば想像がつく……というか、このヒロインの造形からして主人公と別れる選択は作品の雰囲気からしてないなと思っていた。ではどこでラブをコメディにしているかと問われると、恋愛感情がなかった男女が一緒に行動する中で恋に芽生えるドキドキ感、それとは別に主人公たちの仲良しグループであるサブキャラ3人の恋愛模様。むしろ、憧れの先輩に恋破れたり、先生への恋心を秘めていたり、好きな人の恋愛を後押ししたりとこの3人の方がよほどラブコメしていたわけで、彼ら彼女らがラブ分を引っ張っていたと思う。途中で主人公に恋する後輩が出てきたけど、当て馬感半端なかったしな。実は、僕はあまり恋愛に興味はないので(キャラクターがわちゃわちゃ動くほうが好きなのだ)、サブキャラにラブ要素を盛り込むのはなかなか読みやすい手法だと思った。

 というわけで、理想的な日常系だと思う。日常系にもいくつかあって、超常的な設定のある世界で日常を描いた作品も見られるが、僕にとってはそれは日常ではないのだと声を大にして、いやわざわざ言う必要はないか。
 僕は、日常系は読者が感情移入できるようにして、読者の人生と寄り添い励ましてくれる作品であって欲しいと思っているので、そういう意味でこの作品は素晴らしい日常系だと思った。

 個人的に感動したのは6巻。前の巻までの高1・高2・高3の主なイベントがまとまっており、さらに掲載誌で載っていた(らしい)カラー扉絵が収録され、著者の後書きでは登場人物のその後のアイデアが書かれている。愛されてるなあ。出版社や著者にこれくらい愛された作品はやはり読んでいて心地良い。
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