2017年12月5日火曜日

「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」(トラヴィス・ナイト監督、スタジオライカ、2017)

 巧みに抽象化された日本風冒険物語と言ったところか。
 2017年も色々な映画が公開され、よくできた作品も数多かったが、日本人の何割かはこの映画を傑作級として挙げるに違いない。そのくらいよくできた映画であった。
 よく言われることだが、海外の人が作った日本風とは、日本人が見て何らかの違和感を覚えることが多く、この映画はほとんどそういった部分がなかったのが評価のポイントである。何も知らないで見ていたら、スタッフロールで思ったより日本人が少なくて驚いたよ。ちゃんとリサーチすればこれくらいのものは作れるのね。

 さて、冒頭で「巧みに抽象化された」と書いたが、細かい所ではなんちゃってジャパニーズだし、歴史的固有名詞を明言しないから違和感を減じている面が実はある。そもそも月から来た暗殺者姉妹は外見も動きもなんか違うと思った(これは僕の感性の問題かもしれない。ところで彼女らが被っているマスクは能がルーツ?)し、彼女らが序盤で放つ技は映画が始まる前の予告で見たマーベル映画っぽくて日本風アクションには合わないと思う。世界観がここまで日本風だと普通にチャンバラした方が格好良かったと思うんだ。
 また、序盤に主人公が近くで暮らしている村は、家が一箇所に集まり、その周りを田畑が広がる作りだったけど、あれってヨーロッパ風の作りじゃない?(と思ったが、多少調べた限りだと日本でも家が一箇所に集まるところもあるっぽい……けど僕には違和感があったよ)。
 まあ揚げ足を取り始めるとキリがない。そもそもこの作品の良さはそれら個々の描写の正確性ではなく、全体をちゃんと日本「風」に仕立てたということにあると思う。例えばBGMもオープニングは洋楽器のオーケストラで不安を感じたが、物語が始まると和楽器で行われ、しかもメロディは洋風なので非常に聞きやすい。そうなんだ、僕は純粋な雅楽や日本音楽のメロディが合わなくてね。その意味で本当の日本ではないと言われるかもしれないが、それは僕が上でいちゃもんを付けたのと同じことである。それよりも現代では馴染みがある洋風のメロディにした判断を評価したい(余談だが日本語吹替版の主題歌は吉田兄弟が担当しているらしい。聞きたかった!)。

 ストーリーは普通の冒険物語かと思いきや、ついには物語論にまで展開してしまう! ツイッターでは「怪物はささやく」に視聴後の感覚が似ていると書いたが、見ている最中から明らかに不条理で裏の意味がありそうな「怪物はささやく」に対し、本作は普通のアニメ映画としても楽しめ、それで物語の意味さえも考えさせられる作品という違いがある。やられた。もう1回最初から観なければ。確かに言われてみれば猿とクワガタムシが両親だったというのは(特にクワガタムシ)は伏線が張られていた。あのクワガタムシのセンスは日本人からしたらどうかと思わんでもないが、それはともかく、あんなにあからさまにハンゾウ所縁のものがあってハンゾウじゃないなんてことはないよね。クワガタがハンゾウだったと言われた時は驚いたが思い出すと突飛ではない。物語論も押し付けがましくなく、映画に合っていた。それについては色々な人が優れた考察をしているので割愛。

 何よりも驚いたのは映像の美しさ。オープニングの大波の中漂う小舟。序盤の折り紙が折り紙として切りつけたり炎に見立てた紙吹雪を吹く発想。エンドロールでも撮影風景が流れたがしゃどくろが暴れるシーン。中盤の猿VS月の暗殺者の狂ったようなカメラワーク(これもストップモーションで撮ってるのか……)。そして闇の中を照らす灯篭流し。実のところ、僕は灯篭流しを見たこともないわけだが、それでも確かにこの作品のビジュアルはアートのようにスタイリッシュである。むしろ、この作品で美しかったところが日本の美しさと逆転して捉えることもできよう。将来、古き日本の風景を直体験していない世代なんかは、こういう海外での記録から日本の良さを感じ取るのではないか。そう思えたほどで、たぶん日本人以外にも映像の美は伝わると思う。

 僕が見たのは字幕だったが、途中でさ行のダジャレ掛け合いがあるけど、それも違和感なく訳せられていてグッド。翻訳にも恵まれて素晴らしいなあ。どうやら吹き替え版も声はバッチリ決まっているらしかったし、やっぱ吹き替え版も見なけりゃならんのか。
 そう、今まで長々と書いたが、この作品はとにかく見なければ始まらない。見て、これがパペットを使ったストップモーションだと知って、それでまたこの作品のすごさに痺れよう。



 1点だけ不満だったのは、登場人物の造形が細目&つり目気味であったこと。えー、日本人ってあんなにつり目に見えるんですか? 最近はこういうのを読んでいるので気になってしまうのだ。もちろん、浮世絵に描かれる美人は細目なんだけど、この映画では日本人という記号として表現してるよね。特に猿は普通のハリウッドアニメ目なわけで。製作会社の1作目(「コララインとボタンの魔女」)や2作目(「パラノーマン ブライス・ホローの謎」)とキャラデザの違いに驚くので、この製作会社だけでなくハリウッド全体はもう少しマイルドに表現してほしいなと思うわけである。