Tellurは、……現在色々物色中です。

「行き先は特異点」(大森望/日下三蔵 編、東京創元文庫、2017)

2018年1月17日  2018年1月17日 
 去年途中まで書いた感想文だけど、このまま熟成させても完成しないから公開しちゃおう。

 2016年に発表された日本SFの短編の精鋭を集めたアンソロジー。僕は確か2010年位まで買ってたはずだが、それ以降買っていなく、久々に購入。やはり素晴らしかった。
 トップを飾る表題作の藤井太洋「行き先は特異点」。現実と地続きのフィクションであり、実のところ世界を揺るがす事件が起こったりするわけではないのだが、生活に必要な技術が少しエラーを起こして地味だが致命的な事件をこっそりと引き起こす描写が極めてリアルに描かれている。これって現実でも起るの? 読んだあともどこまで現実に起るのか、どこまでの技術が現在実現できているのかの境界が見えにくく、作品に書かれていた事件を読者に想像させる力が強い。しかし、多分10年後は古びているのが予想できるので、この感想文も含めて生モノなんだろうなと思わざるを得ない。リアルな小説だが、どこかのシンクタンクが発表した近未来速報をストーリー仕立てにした小説な印象を受けた。
 次の円城塔「バベル・タワー」。「行き先は特異点」とは180度転換した奇想小説。「行き先は特異点」の次に「バベル・タワー」が配置される並びは絶対にわざとだろう。本書を読んで驚愕するが良いという編者の顔が目に浮かぶようだ。歴史改変というか、何というか、縦籠家と横箱家の来歴を読むのが楽しく、主人公が登場してそんな小説だったと思い出すレベル。ラストシーンはエレベーター(縦)を人類の進化に見立て、それをガイドする(横)という形で縦籠家と横箱家が結婚したシーンとして妥当。できれば縦と横で宇宙を支配する~、みたいなノリになったらもっと面白かった。
 弐瓶勉「人形の国」。やはり真っ白だ。これってマンガ本編に収録する予定はあるのだろうか。個人的には人形の国ってSFというより異世界でのヒーロー物な感覚があったのでこのアンソロジーに載るとは思わなかった。「人形の国」本編知ってる人は面白く読めるだろうが、知らない人は設定とかストーリーとか楽しめるのかな?
 宮内悠介「スモーク・オン・ザ・ウォーター」は半分奇想で半分まっとうなSF。ガス上の生命体というのは面白い着目点。固形の肉体を持った存在(=人間)を生命体と認識できず、人間に取り憑いて騒動を引き起こすあらすじ。分量的には短いんだけど、事件とその解明と驚きの事実がきちんと描かれていて読みごたえがある。ラストシーンは地味に感動したハートウォーミングな作品である。でもSF読んでてこんな小市民的な感動を覚えるのは個人的には良くないことと思う。
 眉村卓「幻影の攻勢」は人類の進化系SFというか幻想小説。個人的にこの手のテーマが好きなので本作品も大好き。事件を詳しく説明しすぎないので余計に神秘的な雰囲気が出る。突き放したようなラストシーンが印象深かった。
 石黒正数「性なる侵入」。バカバカしいが面白い。大真面目な(結構笑える作品が多いけど)SFアンソロジーの清涼剤ともなっている。下手なSFより理屈を考えているのが内容のしょうもなさとの対比になっていた。
 高山羽根子「太陽の側の島」。様々な短編集でいつも最低1つは現れる個人的に入り込めなかった作品。たぶん集中力切れなんだろう。申し訳ないが、書簡小説ということで、一見して読むのが飽きてしまった。たぶんそれぞれの手紙にさり気なく小説世界の驚異が描かれているはずなのだが……。飽きてしまったので覚えていないのである。
 小林泰三「玩具」はエロティック小説のつもりで書いたらしい。もともとは作家仲間のエロティック小説アンソロジーに寄稿したらしいが、後書きを読むと当時は全員が自分の作品がエロくて他人は通常運行だと思っていたらしい。うん、僕もそう思う。もう1作もそうなんだけど、これ本気でフランス書院みたいな官能小説を書こうとしたつもりなら小説家として失敗したことを露わにしており(つまり文体模写とかもできないってことだから)、その意味でわざとなんだろうな。
 山本弘「悪夢はまだ終わらない」は茂木清香氏の「眠れる森のカロン」だ! これはもうそっくりで、犯罪者が反省しても社会に戻されない=反省する意味がなく復讐心を満足させるだけってところまで似ている。この手のテーマを小説にすると似てしまうんだな。しかし短編だけあって、作品としてテーマの深さが「眠れる森のカロン」に及んでいないのが惜しい。
 山田胡瓜「海の住人」。SFマンガで爽やかな読後感。でも、この助手の女の子ってAIなのか。説明されねばわからなかった。。。その後、この作品が収録された「AIの遺電子」を読んだが、非常に面白い。2010年以降のトピックが盛り込まれ、それがSFとして展開している。この作品に出会えたのは、本書を読んで良かったと思った1つ。
 飛浩隆「洋服」。写真から小説を作った作品。短編で終わるので読者に想像を任せれて良い。この小説の設定だと、このくらいの分量が良い感じに幻想的で美しいと思う。もう少し長くなると説明がくどくなる気がする。
 秋永真琴「古本屋のしょうじょ」。何だか格好良い。ファンタジーだ。そして少しいい話だ。本が好きな人が興奮する作品。
 倉田タカシ「二本の足で」。スパムメールが歩いてきたら~という作品。正直、実現するにはコストが掛かりすぎると思うので、その意味では現実には起こり得ない作品(シリーウォーカーと呼ばれる実体化したスパムは、実体化しているがゆえにいっぺんに何人にも送れないし、場所取るから一定数以上は送れないし)。読んでて思ったけど、むしろ人間か否かがわからない不気味な感覚、それも都市伝説的な不気味さを醸し出そうとしていると思った。ところで、ゴスリムだけどgothic+muslimなので、ニホン的なネーミングだと思う。
諏訪哲史「点点点丸転転丸」。短い。そしてギャグだ。しかも実話ですか。とりあえず短いので面白く思える!
北野勇作「鰻」。北野勇作氏だからやはり動物ものなのか。
牧野修「電波の武者」。覚えてなーい。
谷甲州「スティクニー」。覚えてなーい。
上田早夕里「プテロス」は僕にとっては初めてだが待望の上田早夕里氏作品である。近年の僕は極力日本の作家を読まないという誓いを立てており、上田早夕里氏は興味があるけど買うのを後回しにしていた。どこかのアンソロジーで試し読みして買おうかと思ってたけど、今まで買わなかったのを損だと思う。何でもこれって短編集の「夢みる葦笛」ってのに収録されているらしいので、少なくとも「夢みる葦笛」は買うつもりでいる。地球とは異なる惑星で、その星の生物の生態を描き、そして人類とは異なる知性のあり方を考える作品で、短いながらもSFの全てが入っていると言って過言ではない。
酉島伝法「ブロッコリー神殿」。贅沢を承知で言うと、面白いんだけど、この作風にも飽きてしまった。僕が知ってる限り、酉島氏はこの作風(造語まみれの異世界描写)しかないので、普通の文体や描写も見てみたい。これはやはり酉島氏が極めて力があるからこその贅沢なおねだりなんだろうな。読み進めていくと微妙に理解できてしまうのがアレ。
久永実木彦「七十四秒の旋律と孤独」。覚えてなーい。

 公開するまで感想どうしようと思っていたが、これで肩の荷が降りる!
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B!
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