Tellurは、……現在色々物色中です。

「モンストレス vol.1」「モンストレス vol.2」(マージョリー・リュウ作、サナ・タケダ画、椎名ゆかり訳、誠文堂新光社、2017以降続刊)

2018年6月1日  2018年6月1日 
・「モンストレス vol.1」&「モンストレス vol.2

 このマンガ、密かにここ数年の日米マンガで傑作と考えている(ファイブスター物語14巻は除く)。
 が、翻訳マンガの常として、売れるかどうかわからないのでそろそろ感想を書いておくかと思った次第。以前、応援するならブログで記事にしてくれと誰か作家の方が書いていたので、翻訳&出版が危うい海外マンガは感想文をこまめに書かねば。

 さて、名前からわかるかもしれないが、絵担当のサナ・タケダ氏は日本人であり、もともとはセガのスタッフだったらしい。そのため、海外(特にアメリカ)マンガにしては「濃く」ない絵柄なのだ。絵を見ると明らかに日本のマンガ風で、特にメインキャラの1人である狐少女は顔に描かれる線の少なさもあって色調が薄いシーンでは完全に萌キャラ風の顔貌をしている。そう、この作品は日本人が読んでも違和感なく読める海外マンガとして貴重なのである。そういや同じハイファンタジージャンルだと「ウィカ」とは正反対だなあ。「ウィカ」の発狂寸前のゴテゴテ感と何も隠さない濡れ場シーンは、あれはあれで日本人からすれば異文化感満載で面白かったが、1冊読めば胸焼けする。それに比べると「モンストレス」の日本マンガ風ながらそこそこ写実的で、またヌードすら見せない一方で狐少女の着衣水泳を描く(というか、狐少女の仕草がどれもこれもフェティッシュだと思う)、みたいなフェティシズム要素のあるマンガはお腹いっぱいになるまで何回も読めるのである。
 もう少しキャラクターの絵柄について書くと、日本のマンガはよく鼻がないと海外の人から言われるらしく(「北欧女子オーサが見つけた日本の不思議」に確かそんなエピソードがあった気が……)、そんな日本マンガに慣れてる人からするとアメリカのマンガは線で鼻が描かれ写実性が高い。ではこの「モンストレス」はどうしてるかというと、成人のキャラは昔の少女マンガみたいに鼻を線で描く……かと思いきや、日本のマンガみたいに鼻の下部のみを線で表してるコマも多い。その代わりとして、鼻の隆起や影を色で表現しているのだ! これは凄い。読者はちゃんと鼻があると認識できるし、鼻を描かない=顔がのっぺりさせる表現もできる。そう、このモンストレスは線で鼻を表現していない分、キャラクターがどれもこれも若々しく見えるのだ(「ザ・ボーイズ」とかと比べると本当に若くて小奇麗に見えるのよ)。更に言うと、キャラクターってデザイン的に東洋人なのかねえ。絵柄の影響もあってかアジア人に見える、が、作品の内容的に人種の細かい差異を感じさせないようにあえて薄味のアジア人顔に統一した可能性もある。せっかく作者の1人が日本人なのだから、インタビューでも載せてみてほしいな。

 ストーリーは、主人公が自分のルーツを追い求め、陰謀に巻き込まれ、異能に目覚めて追われて逃避行するという理解で良いのか? 物語の展開はアメリカのマンガでありがちな駆け足&省略気味。これはこれで何回でも読めるから好きだけどね。
 1巻では狐少女や喋る猫に出会いキワモノだなーと思っていたらこの世界では普通の種族だったことにびっくり。混血だと書かれていたが、半ばミュータント。2巻では船をチャーターして逃避行を続けるが出てくるキャラがサメ人間だったりタコとかイカみたいな人間だったり、ああこの手の連中もこの世界の1員なのね……と教えてくれる。なんというか、スターウォーズ的な着ぐるみ人外キャラがいっぱい出てくる作品であり、ケモノキャラが好きな人にはおすすめできると思う。顔の描き方が日本のマンガなので、ケモノキャラ、かなり可愛いよ。むしろ主人公を含め人間にはエロスさがないが、ケモノキャラは体つきや表情などがやたらに艶めかしい。

 世界観も過去に大きな戦争があって、その後の世界なんだろうとか、人間も含めた様々なケモノ種族が各々の立ち位置と歴史で動いてるっぽいとか、設定の多さが透けて見えるんだけど、セリフで表されてないのが憎い。一応、各章の終わりにSDキャラが設定を語るページがあるんだけど、それすら作中の用語や歴史が出てきて知らないことが増えていく……。あ、これってTRPG(ウォーハンマーRPG)の設定集を見ている感覚だ。

 見た目は日本マンガで読みやすい。僕は海外マンガだと意識はしなかったほど。すっごく面白いのでぜひとも多くの人に読んでほしい。そして翻訳も最後まで完結させてほしいと心から思う。
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