Tellurは、……現在色々物色中です。

「イスラム飲酒紀行」(高野秀行、講談社文庫、2014)

2018年12月9日  2018年12月9日 
 アルコールを全く飲めない人からすると、飲ん兵衛の気持ちはわからず、さらにアル中(この言い方はもう失礼だな。依存症と呼ぶべきか)の人々がどういう行動原理で動くのか知らなかった。この本は、人によっては「あの」イスラム圏でお酒を求めた貴重な記録、と捉えるのだろうが、お酒を飲めない僕にとってはまずはアルコール依存症の人の考え方や行動を知ることができた本という位置づけである。

 著者の作品は今まで読んだことがなかった。そのため何冊もある著作の中で初めて読む本がこれで多少の先入観を作ってしまった感はある。
 本書ではパキスタンやイランなど様々な国でお酒を飲んだことが書かれているが、基本的にはどれも(奥様と一緒に行った旅行以外では)飲酒やアルコール人口の調査などを目的として行ったわけではなく通常の取材旅行の途中で著者が禁酒に耐えきれずにお酒を探した……という流れである。そのため場当たり的であり、素人の旅行記に毛が生えた程度のものになっている(なお、もしかしたらこの著者の他の著作も同じようなものなのかもしれないが、まだ他の著作を読んでないからわからない)。
 著者のポリシーとしてお酒を飲むなら現地の人と一緒に現地の習俗そのままに飲みたい、というのがあるらしいが、お酒を求めて右へ左へ彷徨きまわるうちに現地に住んでいるがかつて外国から移住してきた非ムスリムの酒場で飲んだり、普通の中華料理店で飲んだり、はたまた裕福そうな大学生の家でこっそりと飲んだり……まあそれらも現地のありのままの姿と言えないこともないけど、いつの間にかポリシーも何もなくなってお酒にありつけて良かった良かったと終わる。うーん、読者としてはお酒を飲む人が実際にはどれくらいいてどういう人が飲むのかとか、どういう種類のお酒があるのかとか、そのお酒はどこから入ってきているのかとか、泥酔や乾杯などお酒にまつわるイスラムや各国特有の文化とかはないのかが気になるのだが、そういう知識面はあまり書かれずこれを飲めたあれを飲めたといったブログ日記になってしまっているのが欠点である。本書を読む限りでは結局著者がお酒を飲みたいだけでしかないので、本書の記述がアルコールに目がない著者の興味の範囲内にとどまってしまっているのはそういうものなのだが、ネットによくある旅行日記だねという評価になる。
 何というか、「お酒は外国人専門店でしか飲めない」ということでそういう専門店について取材するならありだと思うし、もしくは一般市民が隠れて飲む姿を取材するならそれなりの内容を書いてほしかった。どっちつかずというのが僕の評価である。

 ところで……今の時代、個人を隠し撮りとかして道徳的に大丈夫だと著者たちは考えているの? なんかちょくちょく無礼な行動とか思想とかが垣間見えたのも楽しめなかった一因である。本書に書かれた行動の内、少なくない数が今の日本でやったら問題になると思うんだ。なので、もちろん僕だって言うほど他者を尊重できているわけではないけど、ちょっと読んでて気になった。
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