Tellurは、……現在色々物色中です。

「呪いの都市伝説 カシマさんを追う」(松山ひろし、アールズ出版、2004)

2019年3月18日  2019年3月18日 
 というわけで、1つの都市伝説に絞って考察する本を紹介。著者はいわゆる研究者ではないので、都市伝説の収集量や系統立てや分析に限界はある。もっというと、本書の内容は様々な時代・地域で流行ったバリエーションを記録しただけで、それから先の分析については尻切れトンボ気味であることは否めない。とは言え、ネットや口コミの普及も今みたいに広まってなかった時代、そもそも都市伝説というものが一部の好事家にしか知られてなかったであろう時代に「噂」のように廃れやすいものを聞き取り調査をした功績は大きいと思う。
 本書の価値はここまでは素人でもできて、ここから先は専門家でないとできないという線引を見えるようにしたところだと思っている。

 さて、内容の方に移る。都市伝説や怪談の本で「カシマレイコさん」と呼ばれる存在は、調べてみると幾多のバリエーションがある。1970年初頭から今まで、ほぼ日本全国で噂されたお話なので、それはもう尾ひれがつくのも当たり前と言える(僕に限ってみれば、実は「カシマさん」のお話は聞いた覚えがない。1990年台に小学生で、怪談が好きだったのだが、なぜか「カシマさん」という単語に聞き覚えがないのだ)。都市伝説を聞き取る系の本に収録されているお話は恣意的に特定のバージョン選んだのではないか? と疑念がわくだろう。
 著者がネットで集めたお話を集計してみると、大まかに「カシマさん」の都市伝説が広まった流れが見えてくる。「カシマさん」のルーツを探ると共に噂で描かれたディテールの変遷を調べ上げる作業は本書の面白さの1つだ。本書でもいろいろ紹介されているが、「カシマさん」のバリエーションの多さは同じ人物(妖怪?)とは思えないほど幅広く、素人の印象論ながら別の怪談と混ざっているのではないかと勘ぐってしまう。著者は丁寧に変遷を描き、原「カシマさん」とも言うべき「カシマさん」の一番古い噂を、さらには「カシマさん」が誰なのかを探る。

 結論を言うと、結局、調べきれていない。時代は1970年台初頭、場所は北海道夕張炭鉱の鹿島地区、ここで広まった踏切事故の噂が、炭鉱が閉鎖され日本各地へ散らばった炭鉱マンと共に日本各地へ伝播したのではないかという仮説を挙げている。本書で述べられた「カシマさん」と第二次大戦の負傷兵との関連は結局それっぽい仮説を出したものの証拠はない。
 そもそも噂や都市伝説で明確なルーツがわかる方が稀である。今でこそツイッターなど文字のコミュニケーションが発達し、根気強くたどれば噂やデマの発信元を特定できるが(そう考えるとデジタルの文字というのはお話の変化も起こりにくいし都市伝説の媒体としては不向きだと思う。くねくねなどもネットで広まった割にはリアルで知ってる人は少ないわけで。)、噂を公的に記録する媒体が新聞や雑誌くらいしかなかった時代を調べるのはこれ以上は難しいだろう。
 都市伝説という記録に残りにくいお話を調べた本として1人の都市伝説ファンとして面白かった。
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