Tellurは、……現在色々物色中です。

「名探偵ピカチュウ」(ロブ・レターマン監督、ワーナー・ブラザース&レジェンダリー・エンターテインメント、2019)

2019年5月30日  2019年5月30日 
 いやー、ポケモンもついに実写映画になるとは……。しかもかなりちゃんとした内容だったし。やはり全世界にファンがいる作品は珍妙なアレンジを加えられないので強いな、と改めて感じたのだ。

 ポケモンゲーム(特に初代=第一世代)のファン的には、出てくるポケモンが第一世代だけじゃないのが面白かった。内容とビジュアル的に対象年齢が高いと思ってたのでてっきり第一世代しかいないのかなーと思っていてびっくり。数は少ないけど、ちゃんとフェアリータイプも出てる! でも毒はゲンガーだけ、鋼タイプは出てこなかったと思うし、ドラゴンタイプも虫タイプ(Wikipedia)を見るとバチュルが出ていたらしい)も岩タイプも記憶にない。悪はヤンチャム親子とゲッコウガとニューラの群れがいたのに!(モブシーンちゃんと見ると岩タイプが映ってるかもしれないけど)。ところで、銅像みたいに鎮座してるゴルーグは絶対にゴーストタイプじゃないと確信した。ゴルーグは鋼・地面だよ。ゴルーグ、できれば空を飛んで欲しかったな……。

 ビジュアルの目玉はなんと言ってもピカチュウ。ピカチュウがもふもふしてて可愛い。ピカチュウだけじゃなくてカビゴンももふもふしててぬいぐるみみたいだし、フシギダネはカエルのような植物のような不思議な質感だけど可愛かった。毛を持たない連中はゼニガメやリザードンやギャラドスなど、それっぽかったと思う。
 とはいえ、リアルな汚れが足りない感じはした。町中が異様にクリーンではあるけど、ポケモンは(というかピカチュウは)裸で歩いているのだからもっと足元が汚れてて良いはずだ(もっといえば冒頭に出てくる野生のカラカラは全然野生っぽくない綺麗さだった)。ミニチュアペイントで汚れのないペイントの見本になった。そう考えて冷静に見てみると、ピカチュウ、リアル系のぬいぐるみレベルじゃない? いやもふもふしてて可愛いけど。
 ぶっちゃけ、ビジュアルの質としたらパシフィック・リムの衝撃を超えてはいない。可愛い可愛い言われてるピカチュウの表情の手法はジュエルペットシリーズで既出だし(人間は眉があって表情が出るけど、眉のない動物は目の周辺で皺を作って表現する、とジュエルペットサンシャインの設定本に書かれてたよ)、もっと昔から、もしかしたらディズニーあたりですでに開発されている手法かもしれない。
 そして絶対に我慢ができなかったのはダサいスローモーションアクションを使ってること(SATを参照)。スローモーションアクションは絶対に近年の映画をおもちゃっぽくしている原因なので、親の仇のごとく批判しなければならないと改めて決意した。しかも今作ではスローモーションになると音が(声が)低く引き伸ばされるのだ。三流バラエティ番組のギャグシーン? 正直、罵倒表現が思いつかないほどひどい。
 なお、今作で新たにもう1つダサいビジュアルのテスト方法を発見した。未知の強力なパワーが発動されて強敵感が出ると街を引きで映し衝撃波がブワッとなる。この表現を2019年にもなって使うのはもはや犯罪的ですらある。

 脚本は……うーん。脚本もそうだし設定も正直思ってたのより出来は良くない。見終わってからこのサイトを見たけど、うん、そうだよね、と思った。ミュウツーは素直に主人公のお父さんを助けてやれよとか、人間の魂をポケモンに入れる→人間の身体がなぜか消えるとか、その割に黒幕おじさんの身体は消さずに無防備だった(混乱の中バルーンが爆発してビルが倒れたらどうするつもりだったんだろ)とか、メタモンがいるなら黒幕の息子さんはさっさと殺しとくべきじゃなかったのでは?(なんで押し入れに放り込んだままだったんだろう) とか、そもそもお父さんの魂がピカチュウに入ったからと言って主人公だけがピカチュウと会話できる理由になってない(リアルで腹で感じたの?)とか、怪しい薬品「R」ってなくても話がまとまったのでは?(「R」の存在が主人公を物語に導入したのは確かだが、その割には「R」と物語の真相とのつなぎが雑というか……) とか設定のツッコミ所はたくさんある。
 また、名探偵だったのはCNMの女性記者(ヒロイン)で、主人公は彼女に引っ付いて偶然情報を得たり、黒幕おじさんから解説してもらったりと終始受け身だったのが残念(ヒロインに出会わなかったらお父さん助けられてないよね?)。そのくせヒロインは終盤出番がなく黒幕の息子さんの方がヒロイン感あってかわいそうだった。
 ついでに、ポケモンをリアルに、そして連れ歩きシステムにしたことで、ポケモンバトルが闘犬とか闘鶏みたいにインモラルな雰囲気になるかと思えばそんなことなかった。闘犬・闘鶏を批判する人には僕は反対だけど、監督はもうちょっと生き物をバトルさせることを批判的に描くべきだと思う(たとえポケモンのコンセプトにそぐわなくても)。

 文句を言うだけでは発展性がないので良いところを書いておくと2つある。
 まず何よりも、主人公がかわいい。ゲームのポケモンの主人公みたいなまっすぐでお上品なキャラで好感が持てる。この作品、主人公だけじゃなくて、冒頭の主人公の友達とか、黒幕の息子さんとか、男性(おっさんピカチュウ&お父さん除く)をすっごくかわいく撮ってて、それもあって女性陣の印象がイマイチ。一方、おっさんピカチュウは時々主人公に向けて女性の誘い方みたいな男同士のシモネタを話して、主人公から冷たくあしらわれるんだけど、これってお父さんがこんな品性ってことでしょう? 主人公、こんなお父さんとこれから暮らすんだ……。
 2つ目は、ポケモンの個体はあくまでいっぱいいる種族として描いていること。ピカチュウは相棒だけしか出てきてないけど、どこかの森に行けばいろんな性格のピカチュウに出会えるよう雰囲気がある。これは僕の勝手な考えだけど、日本の作品って主人公を特別な存在として描くのは得意なんだけど、何でもない有象無象の一人(でも主人公)として描くのが本当に下手だと感じている(繰り返すが僕が見ている範囲の話だ)。一方で、アメリカの作品は社会の歯車を社会の歯車としながら主役として描けるという感覚があり、それが今作のポケモンの描き方につながっているのではないかと思っている(繰り返すが僕の感覚の話だけど)。つまり世界の広がりをこの映画から感じることができて、それが受けたってことである。

 文句は書いたがとりあえずポケモンが実写化されただけでも満点を与えるべきか。今後のコンテンツ業界はこれと比べられるようになってしまい大変そうである。
ー記事をシェアするー
B!
タグ