Tellurは、……現在色々物色中です。

「トランクの中に行った双子」(ショーニン・マグワイア 著、原島文世 訳、創元推理文庫、2018)

2019年1月14日  2019年1月14日 
 この作品は「不思議の国の少女たち」の外伝的続編であり、前作である「不思議の国の少女たち」を読まなければ内容が理解できないと思う。
 この作品の問題点は、「トランクの中に行った双子」単体では世界観がわからず、面白さが前作に依拠してしまっていることである。前作では異世界から戻ってきた子供たちというテーマで異世界を描写し、逃避文学と現実とのすり合わせを丁寧に物語にしていたのだが、今作は悪い意味で単発のエピソード集にしか過ぎない。4年という年月を薄めの文庫本1冊にまとめるのは難しかったのだろうと同情するが、Aという出来事がありました、その数年後、Bという出来事が起こりました、そしてさらに数年後、Cという出来事が起こりました……というプロットはさすがに2018年末のエンタメ系長編小説としてはお粗末である。不思議の国のアリスなんかは心理描写が押さえられ、エピソード集が寓話っぽい雰囲気を醸し出しているが、この作品は登場人物の感情ががっつりと書かれた現代の小説であり、余計にエピソードのぶつ切りが物語に入り込ませない効果となる。
 というか、世界観の前提となる異世界のルールが異世界に行った子供視点だからとはいえかなりどうとでもとれるためファンタジー的な面白さすら薄いと思う。吸血鬼が実在する異世界で、それがメインテーマのはずなのに、山に棲む人狼だったり深きものどもっぽい半魚人(?)が存在したりと吸血鬼ってこの異世界の中心的存在ではないのでは? と思ってしまう。
 結局、文庫本1冊で描いたのは前作の犯人の素顔であり、本来前作で描く内容であった。前作の某キャラたちを掘り下げたいという人以外は読まなくても大丈夫だと思う。

 なお、時々主人公の少女の描写がフェティシズム特盛になるんだけど、どこまで日本風に言う「萌え」を意識したんだろう。
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