Tellurは、……現在色々物色中です。

「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(マイケル・ドハティ監督、レジェンダリー・ピクチャーズ、2019)

2019年8月25日  2019年8月25日 
 公開1週間後に見に行って豪華版パンフレットも買ってきた(なお、この感想文を書いたのは公開1週間後で、ブログに載っけたのは何でこんなに遅くなったんだろ)。……うん、ある程度感想も耳に入ってきて豪華版買うべきかなと迷ったが、買ってしまったのだ。

 今作の売りはゴジラがいろんな怪獣と戦うことだろう。平成ゴジラと比較してる人もいた。出てくる怪獣はマンネリで、ストーリーと設定だけ多少現代的になっているという意味では、良くも悪くも平成ゴジラの現代版的な内容であり、2014年ゴジラを見た衝撃は超えていない。

 個々の要素を見ると、映像は、2014年ゴジラやパシフィック・リムと同等。つまり現在の映画の水準より飛び抜けて高くもなく低くもない。おなじみのモスラやキングギドラやラドンがハリウッドの技術でアップデートされた! というウリにどこまで価値を見出すかで映像の評価が変わる(ちなみに僕はそこまで映像に興奮はしなかったな……)。怪獣の質感はまるでゴジラが本当にいるかのようであり、「シン・ゴジラ」で蒲田くんの血が明らかにCGとわかる質感で描かれたのは雲泥の差。
 一方でストーリーは、怪獣を操って人類という病原菌から地球を守る目的のテロリストが人間の被害を最小限に怪獣を目覚めさせていたら、怪獣を制御しきれずにゴジラに頼るしかなくなったお話なのだが、まあありきたりだろう。技術を過信してパニックになる巨大生物モノではジュラシック・パークがすでにあるわけで。

 そして、今作の特徴だけど、ゴジラとしてはひどい。ハリウッドの怪獣プロレスに徹したらこうなっちゃうんだなあという見本になっている。その最たるものが、キングギドラに敗れたゴジラにパワーを充電させるために使った手段が核兵器! これはダメでしょう、ゴジラの理念とかから完全にかけ離れてる。このシーンをOKとしちゃうなら、最後のキングギドラとの戦いのときにひたすら核兵器を撃ち込めば楽に倒せたのでは?
 他、ちょくちょく気になったのが、主人公たちの前にゴジラが立ちふさがる(または突然現れる)→主人公たちは踏み潰されるのか?(もしくはゴジラにぶつかって海の藻屑となるのか?)→心変わりしたのかゴジラは向きを変える(もしくは何とかぶつからない)、というシーンがちょくちょく出てきたこと。うん、今作でゴジラは主人公たちの味方だからね、どうせ主人公たちは死なないよね。そう、ゴジラは主人公たちを殺さないのが視聴者にはわかってるのだから、こんなシーンを作らなければ良いのに。はっきり言って、ゴジラが単なる味方キャラとしか思えなかったし、もしかして制作陣は本気でゴジラを主人公たちの味方だと視聴者に思わせるために撮ったのだろうか?
 ゴジラに限らず、他の怪獣も、戦闘機を体当たりで破壊できる性能を持っているくせに、ミサイルや下手すると歩兵のバズーカみたいなのに怯む描写は一貫してない気がする。それとも戦闘機を破壊するのはやせ我慢してたのだろうか。

 で、ちょっと見逃せないほど気になったのが家族の関係。妻への執着は薄いけど、子供に過剰な愛を注ぐどこかで見たハリウッド父親像。この手の父子関係だと子供が娘である場合が多い気がして(このブログでも「ミセス・ダウト」で言及したことがあるし、アントマンもそういう作りだったはず)、明らかにかつての男ヒーローー女ヒロイン関係を父親ー娘に転化してるだけな気がする。というか、娘が半分恋人の役割を担わされててグロテスクなんだけど、批評家は何も言わないの? 今ゴジラでは人類を滅ぼそうとする妻と人類を救おうとする娘として妻がボスキャラまで担わされてるし……。

・その他小ネタとしては、どこかのスタジアムでキングギドラの熱線を躱しまくる主人公の娘はマーベルに出して良いレベルの身体能力だと思う。
・ついでにSAT(スローモーション・アクション・テスト)は合格。心ある制作陣だ。
・ネットで話題のゴマスリラドンに代表されるように、怪獣の擬人的描写が気になったな。怪獣はゴジラといえど敵でも味方でもあり得るという価値観は難しいのかもしれない。
・前作からの登場人物を殺してストーリーを展開させる手法テストは不合格。せっかくの芹沢博士を、東宝オキシジェン・デストロイヤーの存在しない世界線で殺してどうする。ゴジラ発祥の日本人としてはゴジラ映画として失格とせねばならぬし、日本人枠がなくなるという意味でも問題おおありであろう。

 今作はたぶんエンターテイメントとして見てほしいと製作者たちは思ってるんだろうな。そこかしこに過去作のオマージュが現れていることからわかる。過去のゴジラや怪獣映画が好きなのだろう。ただ……ゴジラというのはいろんな意味と歴史が含まれてしまってるから、そういう文化を共有できてない人々が作ってもニセモノっぽい印象を与えてしまう。ハリウッドに対しては、パシフィック・リムみたいなオリジナルの作品を追求してほしい。ゴジラはVSデストロイアで終わりで良いと思うよ。

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