Tellurは、……現在色々物色中です。

「砂糖の空から落ちてきた少女 」(ショーニン・マグワイア著、原島文世訳、創元推理文庫、2019)

2019年3月14日  2019年3月14日 
シリーズ1作目「不思議の国の少女たち
シリーズ2作目「トランクの中に行った双子

 様々な異世界に行って帰ってきた子供たちが集まる学園小説第三作。前作とは異なり、ストーリーが動く。死者の国など第一作目で言及されていた異世界にも行き、その風景が具体的に描かれるのは面白い。強い個性を持った少年少女の冒険物語であり、育まれる友情やピンチを切り抜ける機転、分量は多くないとはいえ手に汗握るアクションなどその手のジャンルが好きならばワクワクする。

 そう、あらすじを読むとワクワクするんだけど、内容は少し微妙だったのだ。それはなぜかと言うと……。

 1つ目に、この小説がクエスト小説だからである。主人公たちはアイテムやイベントのためにある場所へ行き、そこでさらなるアイテムやイベントが必要とわかり次の場所へ行く……。そうやって異世界を移動するのがこの作品の構図なんだけどお使い要素があからさますぎる。普通、主人公たちをバラバラにするとか偶然違う事件に巻き込まれて、でも最終的に冒険の目的に繋がるみたいなテクニックがあると思う。前作もそうだったんだけど、ストーリーテリングが単純なのが欠点。

 2つ目は、僕がスレてるだけなのかもしれないのだが、主人公の女の子が太り気味で太ってることに悩む内面が描写されてでもステレオタイプにしたくないから運動ができることにしてるけど、「太っている」ことに作者自身がこだわり過ぎで主人公=肥満と結びついてしまっている。読んでて感じたのは、太っていることをもうちょっとスルーした方が良いと思うのだが、それだと太っていることに対する黙殺だと批判されるのかな。それでもやたらに太っていることを強調され、対比して言い訳のように運動ができるとこれまた強調されるよりマシだと思う。本書を読んだ限りだと太っていることが半ばギャグのように多用されており(登場人物の1人もうんざりしてる素振りを見せる)、逆に太っていることに変なバイアスを与えると思う。

 3つ目、これが一番重要だと思うんだけど、異世界のパラメータであるナンセンスやロジックやヴァイスやヴァーチューが特にそれっぽい描写もなされず終わる。お菓子の世界は法則のあるナンセンスが支配すると言われているが、ナンセンスらしさは母が亡くなったのに産んでもない子がいるという描写であり、それすら未来からやってきたで済んでしまい(子が徐々に消えるところなどはバック・トゥ・ザ・フューチャーの描写とそっくり)、ナンセンスらしさが感じられなかった。第一作目はナンセンスに行った子は非常にやかましく考え方も我々から見て突飛だったが、今作では悪い意味で普通の人になってしまっている。このシリーズの中で異世界が異世界らしい不思議さを感じられるのはナンセンスだとかロジックだとか、そういった要素であり、地面がお菓子みたいなわかりやすい描写じゃないと思うのだ。「1日かかる距離」が本当に地面が伸び縮みして1日かかるというのは面白かったけど、異世界っぽさはそこがハイライトだったな……。もうちょっと本編に絡まないシーンを増やして異世界としての存在感を増やしても良かったと思う。


 駄作じゃないし、第一作目を読んでのワクワク感はまだまだ残っているんだけど、小説の作りとして喜べない部分が多かった。設定の多くを語らずあくまでミステリーだった第一作はだから面白かったのかもしれないと今から考えると、そう思う。

 何だかんだで設定は面白いため、シリーズはまだまだ続くということで、今後も付き合って読もうかと思う。


 それにしても、前作の感想文でも書いたんだけど、女性の体の描写がフェティッシュ気味なのは作者の趣味なんだろうか。最近あまり見なかったので何だか気恥ずかしい。
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